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広島高等裁判所岡山支部 昭和25年(う)7号 判決

被告人

松原喜一

外二名

主文

原判決を破棄する。

本件を岡山地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人寺田熊雄の被告人松原喜一に対する控訴趣意第二点について。

(イ)  原判示第二の(2)の事実と同第二の(1)の事実を彼此対照すると両者は同一類型に属する犯罪と目せられるところ、原判決が判示第二の(1)事実を強姦致傷罪と強盜罪の想像的競合(刑法第五四条第一項前段)に問擬しながら、判示第二の(2)の事実を強盜強姦未遂罪に該当するものとしている点は所論のとおりであるが、判示第二の(2)の事実についても同第二の(1)同様強姦未遂罪と強盜罪の想像的競合を以て処断すべきであると主張する論点はにわかにこれを採用するを得ない。即ち、強盜が強盜し終る前又は強盜し終つた後その機会に強姦の犯意を生じ強姦の所為にも及んだ場合は強盜罪と強姦罪の結合犯である強盜強姦罪に該当するものとなすべきであるが、強姦が強姦し終つた後更に強盜の犯意を生じ強盜の所為にも出た場合は、たとえそれが同一機会の犯行であつても、強姦罪と強盜罪の併合罪を以て処断すべきものと解すべきところ(最高裁判所昭和二十四年(れ)第一八九八号同年十二月二十四日第二小法廷判決参照)、判示第二の(2)の事実摘示によれば被告人松原喜一の判示強姦と強盜について以上の事実関係の認定が明確を欠くと認められるから、かかる事実認定では判示第二の(2)の事実が果して強盜強姦未遂罪に該当するものとなすべきか、将又強姦未遂罪と強盜罪の併合罪を構成するものとなすべきか論断に由ない(判示第二の(1)の事実についてもこれと同趣旨のことがいい得られる。)しからば、原判決には敍上の点につき判決に影響を及ぼすことの明白な法令違反があるか、又は理由齟齬の違法があるものというべきであるから原判決は破棄を免れない。

そして、右は被告人松原喜一の利益のため原判決を破棄する場合であつて、破棄の理由は控訴をした共同被告人藤田吉宗に共通であるから、同被告人のためにも原判決を破棄すべきものとする。

同弁護人の被告人高田幸一に対する控訴趣意第二点について。

(ロ)  訴因変更の方式等に関しては、公訴提起の場合に準じ、刑事訴訟法第三一二条刑事訴訟規則第二〇九条に厳格な定めがなされ、訴因変更に対する被告人の防禦に遺憾なきを期しているのであるが、記録を精査するも、原審においては所定の訴因変更の手続が履践された形跡がなく、所論指摘のようにわずかに原審における最終の口頭弁論期日である第一〇囘公判期日において出席検察官がその論告中に、「竊盜罪の点は同罪に予備的賍物收受罪を構成するに証明十分と認めるので相当法条を適用し云々」の旨陳述しているに過ぎない。しからば、検察官の右論告中の陳述のみを以てしては、検察官三宅仙太郞作成の昭和二十四年四月十六日附起訴状記載の公訴事実第二中右被告人に対する竊盜の訴因が適法に判示第六の賍物收受の訴因に変更されたものとなすを得ないから、以上適法な訴因の変更がないのに同被告人の竊盜の訴因に対し賍物收受の事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明白な法令違反があるというべきである。故に、論旨は理由がある。

(弁護人寺田熊雄の被告人松原喜一に対する控訴趣意第二点)

第一  被告人杉原に付き、原判決は、その理由に於て

(1) 昭和二十四年一月二十七日、二十時四十分頃、浅口郡里庄村に於て、田中敏子(当三十五年)を姦淫せんと暴行脅迫を加えたが果さず、その際、同女から衣類八点及び現金千二百円在中の風呂敷包一個を強奪し

(2) 法定の除外事由のないのに、昭和二十三年十月頃から昭和二十四年二月頃迄の間、自宅に於て、刀渡十五糎八位の匕首一振を所持し

第二  相被告人藤田宗吉と共謀の上

(1) 昭和二十三年九月三十日、十九時頃、浅口郡里庄村に於て、原映子(当十九年)に暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧して姦淫し、因て同女の顔面、脛部等に治療約一週間を要する擦過傷を負わせ、且、同女所持の手提袋から現金八十円を強奪し

(2) 昭和二十二年十二月十日、十九時半頃、同村内に於て、田中貞(当三十一年)を認め姦淫しようとし、その前方に待ち伏せ、同女を捕え、「声を立てたら為にならんぞ」と脅迫し、首を締め、頬を殴る等の暴行をし、更にその背後から拳銃を突きつけたように装い「撃て」などと申し脅し、約二百米先の細道に連込み、「男の要求を容れい」と迫り、その反抗を抑圧して同女の局部を押え、そのズボンを脱がせようとしたところ、折柄その前方路上に誰かが来て同女が大声で救いを求めたので姦淫の目的を遂げなかつたが、その際、同女所持のライター一個及び弁当箱等在中の風呂敷一個及び現金八百円を強奪し、

(3) 昭和二十三年十月二十八日、二十時半頃、同村内に於て、高藤寿満(当二十四年)を姦淫せんとして果さなかつたが、その際、暴行脅迫を加え、ボール箱在中の風呂敷包一個を強奪し

(4) 同年十一月五日十八時半頃、浅口郡鴨方町路上に於て、今井淸子(当二十三年)及び藤枝芳子(当二十九年)の両名を姦淫せんとして果さなかつたが、その際、今井淸子に暴行してその反抗を抑圧した上衣類十点在中の風呂敷包み一個を強奪し

(5) 昭和二十二年十一月三日十八時三十分頃、前記里庄村内に於て、仁科和子(当二十三年)及び妹節子(当十三年)を認め姦淫せんとしたが果さず、その際右和子所持の腕時計一個を強奪し

(6) 同月中旬頃、同村内に於て、佐藤成実(当二十一年)に対し、暴行脅迫を加えて反抗を抑圧し、強いて之を姦淫し、因て同女の処女膜に裂傷を負わせ

第三  相被告人高田幸一と共謀の上、昭和二十三年五月廿七日二十二時頃、同村内国道上に於て、山下和子(当二十一年)を姦淫しようとして暴行脅迫を加えたが、通行人があつたため、目的を遂げず、(中略)

と云う事実を認定し、第一の(1)に付き刑法第二三六条第一項、同(2)の所為に付き銃砲等所持禁止令第一条第二条罰金等臨時措置法第二条、第二の(1)に付き刑法第二三六条第一項第一八一条(第一七七条)第六〇条、第二の(2)に付き刑法第二四一条第二四三条、第六〇条、第二の(3)乃至(5)に付き、刑法第二三六条第一項第六〇条、第二の(6)に付き、刑法第一八一条(第一七七条)第六〇条、第三に付き刑法第一七七条、一七九条、第六〇条、第四の(1)、(2)、第五、第七に付き刑法第二三五条、第六〇条、を適用し、第二の(5)の強盜罪と第四の(1)、(2)及び第五の竊盜罪とは連続犯であるから改正前の刑法第五五条(昭和二十二年法律第一二四号附則)、刑法第一〇条を適用して重い強盜罪の刑に従い、第二の(1)の各所為は想像的競合の関係にあるので、刑法第五四条第一項前段、第一〇条を適用し、重い強姦致傷罪の刑に従い、銃砲等所持禁止令第二条、所定刑中懲役刑を選択し、第二の(6)の強姦致傷罪の所定刑中無期懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四六条第二項を適用した上、被告人を無期懲役に処した。(中略)

原判決は、前記の如く、その理由第二の(2)の事実を以て刑法第二四一条、第二四三条に該当するとした。

然し乍ら、右の事実は原判決の理由自体からして刑法第一七七条第一八〇条の強姦未遂と同法第二三六条第一項の強盜罪に該当し、その内強姦未遂に付て告訴又は公訴の提起なきに於ては、之を以て単に強盜罪を以て処断すべきである。原審は、原判決理由に記載せられる第一の(1)、第二の(1)、(3)乃至(5)に付て、それが全く第二の(2)と同一類型の事実であるにも拘らず、孰れも単純なる強盜罪又は強姦罪と強姦致傷罪との想像的競合に当るとした。然るに、之と全く同一類型の事実なる第二の(2)のみに付き俄かに刑法第二四一条、第二四三条の強盜強姦罪の未遂としていたことは適当でない。両者共、等しく「強姦せんとして果さなかつたが、その際財物を強奪した」と云う案件であること、原判決理由中の記載自体からして明瞭である。然るに、その一を以て強盜罪、又は強盜罪と強姦罪と想像的競合とし、他は之と全く異る強盜強姦罪となしたことは、彼此矛盾すること甚しく、その孰れかが法令の適用を誤つたものと考える外はない。而して、弁護人は、「強姦せんとしたが果さず、その際財物を強奪した」と云う事実は当然強姦未遂罪と強盜罪との想像的競合を以て問擬すべきものと考え、原判決は、右第二の(2)に付き法令の適用を誤つたものと主張する。これ、控訴趣意の第二点である。

(同弁護人の被告人高田に対する控訴趣意第二点)

原判決は、被告人高田に付き、その理由中に、(中略)

第六 昭和二十二年九月頃、相被告人松原喜一方で同人が山陽線笠間駅で氏名不詳者から竊取した腕卷時計一個及びカラー二枚を、その賍物たるの情を知り乍ら買い受け、以て賍物を收受した事実を認めている。(中略)原判決は、前記の如く判示第六の事実を以て賍物收受罪に問うている。

然し乍ら、この犯罪事実に付ては公訴の提起がない。即ち、被告人に対しては、相被告人松原に付て認定した原判決理由第五の竊盜事実に付ての共犯としての起訴がある(昭和二十四年四月十六日附検事三宅仙太郞作成の起訴状参照)に止まり、賍物收受の罪に付ての公訴は為されていない。尤も、原審第十囘公判調書中、検察官が所謂論告を為すに当り、「竊盜罪の点は同罪に予備的賍物收受罪を構成するにその証明十分と認めるので相当法条を適用し、被告人高田幸一を懲役三年罰金千円に処するを相当と認める」と云う意見を述べた旨の記載があるが、かかる瞹眛なる意見の表明に依て、公訴の提起ありと断ずることは到底なし得ない(後略)。

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